
この本に出会ったのは5年前の1999年,IAHR(国際水理学会)の2年に一回開催される会議がオーストリアのGraz(グラッツ)で開かれたときである.本会議の展示場に並べられた本の中からみつけた一冊であった.
当時この本を見たときに,水理学の教科書としてこのレベルでよいのだろうかと感じた.しかしその後2年たたないうちに大学での水理学の学習について行けない学生が多くなり,10年前に行った学習範囲の半分程度しか進行できない状況が出てきた.その大きな原因は,数式がたくさん出てくる水理学の内容にとてもついて行けないということであった.さらに微分,積分を使う数式での展開がために水理学の内容を理解しようとしない学生まで出てくる事態となった.数学を使わない授業をしようと,自分で教科書を書こうかと考えたときに,思い出したのがこの本であった.
著者のMelvyn Kay氏とのメールの交換で,「日本でも数学離れが起こっているのですか?」との問いがあり,イギリスではかなり前からあったことも知った.
水理学の数学を使った展開は非常に美しいが,数学の苦手な学生には現象を理解するための障害になっている.そこで現象の理解のための最小限の数式を使って水理学を理解するのに,この本は最適だと思う.数値を使った解説を例題で説明する工夫がされており,実際に起こる現象を最低限の数式で説明する努力もされている.
例えば静水圧での平面に作用する合力とその作用点を求める問題にしても,断面2次モーメントの式を出さないで最も単純な式の結果のみを提示して済ませ,それ以上の高度なことを勉強したい人は,もっと高度な本で学習するような展開をしている.また開水路の水面高が,常流の場合には水路底を上げることにより低下する事実を比エネルギーの原理を使って丁寧に説明している.
この本で水理学の基本を理解することが出来れば,より高度な展開については別の教科書,例えば本間仁著「標準水理学」などで学習すればよいであろう.
この本が大学での水理学の学習に困難を持っている学生,社会人で水理学の現象を改めて理解したい人の役に立てば幸いである.