
ドイツでベストセラーになった自閉症者による自伝。下記目次の「立ち読み」から、本文の一部をごらんいただけます。
これは自閉症者の自伝である。そしてそれは、ほとんど詩的とさえいえるすばらしい言葉を駆使したものである。自閉症者自身による自閉症の記述は非常にまれである。しかも明らかに第三者の手を借りずに書かれたものだ。本書は謎に満ちた自閉症という世界にいる人間の思考方法への親密な洞察を我々に可能にする
《暖房》は彼に《挨拶し》、《ドアノブ》が彼の《注意を引く》。けれど彼にとってほかの人間を知覚することは難しかった。彼らの顔には「まるで舗装されたばかりの道路のように」蒸気がたちこめている。アクセル・ブラウンズは自身の内面世界を描いた「鮮やかな影とコウモリ」で、一躍有名になった。 ブラウンズは、この小説を純粋に記憶からのみつくられた「百パーセントの自伝です」と言う。作者の記憶力は、本人の弁によれば「怪物なみ」なのだ。
アクセル・ブラウンズの「鮮やかな影とコウモリ」は、言葉の通じない外国にいて、人の言葉が雑音、騒音としか聞こえない、例えるならばそんな自閉症の体験をつづった本だ。しかしそれは一時的なエピソードではなく、深い生の感覚である。 ブラウンズは、自身の殻にとじこもった子供時代から、自立した大学生になるまでの月日を、障害者の手記としてではなく、豊かな言葉を使った散文として描写した。この本のなかで彼が認識を獲得していく過程は、言葉を獲得していく過程でもある。
アクセル・ブラウンズの子供時代と少年時代は、他者を知覚し他者の中でうまく生きていくことの困難に満ちていた。その体験を文学に昇華した作品である。 ブラウンズは言葉に対して特別な関係を構築する。彼は独自の言葉を発明し、それらの言葉がこの本を芸術作品に高め、彼の異質なパースペクティヴを非常に詩的に明らかにする。 ブラウンズがある朗読会で語ったところによれば、彼がその著書のなかで伝えたかったもっともすばらしい発見は、ズィルトのある通りの名前が三種類の異なるスペルで書かれているということだった。